「発注者支援業務って具体的にどんな仕事をするの？」
「未経験からでも挑戦できるのか知りたい」
「1日の流れや働き方のイメージが掴めない」

このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
発注者支援業務は、国や地方自治体が行う公共工事において、発注者側の業務を民間企業がサポートする仕事です。
道路やトンネル、橋梁といった社会インフラの整備に携わりながら、公務員に準じた働き方ができることから、建設業界での転職先として注目を集めています。
しかし、具体的な業務内容や1日の流れについては、なかなか情報が少ないのが現状です。

この記事では、発注者支援業務の基本的な内容から、実際の1日のスケジュール例、未経験から就くために必要な準備まで、詳しく解説していきます。
転職を検討している方や、発注者支援業務に興味のある方は、ぜひ最後までご覧ください。

発注者支援業務とは、国や地方自治体などの公共工事発注機関が本来行うべき業務を、民間企業が代わりに実施する補助業務のことです。

具体的には、工事の積算や施工監督、各種資料作成といった専門的な業務を、建設コンサルタント会社などが受託して行います。
公共工事は、道路やトンネル、橋梁、ダムといった社会インフラの整備を目的としており、税金を財源として実施されるため、透明性と適正な管理が求められます。
しかし、近年の公務員削減や業務量の増加により、官公庁の職員だけでは対応しきれない状況が生まれました。

このような背景から、「民間でできる業務は民間に」という国の方針のもと、発注者支援業務が誕生したのです。
東日本大震災以降の復興需要やインフラの老朽化対策により、その重要性はますます高まっています。

発注者支援業務に従事する人は「みなし公務員」と呼ばれ、公務員に準じた働き方ができる点が特徴です。
民間企業に所属しながら、官公庁の事務所に常駐して業務を行うため、土日休みで残業も比較的少ない環境で働けます。
ただし、みなし公務員は公務員そのものではなく、あくまで公共性・公益性の高い業務を担う民間企業の従業員である点に注意が必要です。

主な発注者としては、国土交通省（地方整備局を含む）、農林水産省、防衛省といった国の機関のほか、NEXCO（高速道路会社）、UR都市機構、都道府県や政令指定都市などの地方自治体が挙げられます。

発注者支援業務の働き方の実態について詳しく知りたい方はこちらの記事で解説しています。

発注者支援業務は大きく分けて3つの業務分野があり、それぞれが公共工事の円滑な進行を支える重要な役割を担っています。
発注者によって重点を置く業務は異なりますが、いずれも専門的な知識とスキルが求められる業務です。
ここでは、各業務の具体的な内容について詳しく解説します。

発注者支援業務に向いている人の特徴について詳しく知りたい方は、こちらの記事で解説しています。

積算技術業務は、公共工事を発注するために必要な工事費の算出や、発注用図面の作成を行う業務です。適正な予定価格を設定することで、税金の無駄遣いを防ぎ、公正な入札を実現する役割を果たします。

具体的な作業内容としては、まず現地調査を実施し、工事に必要な材料の種類や数量を把握します。
その後、工事発注図面や数量総括表（数量計算書）を作成し、国土交通省が定める積算基準に基づいて工事費を算定していきます。

また、施工業者への工事内容説明に使用する「発注者支援業務共通仕様書」や、その工事特有の技術要件を記した「特記仕様書」の作成も重要な業務の一つです。
これらの書類は、発注者と施工業者の認識を合わせ、工事の品質を確保するための基準となります。

積算業務では、専門的な積算ソフトやCADソフトを使用するため、これらのツールを使いこなすスキルが必須となります。

工事監督支援業務は、施工段階において工事が設計図書や仕様書通りに適切に進められているかを確認する業務です。
発注者と施工業者の間に立ち、品質や安全性を確保する重要な役割を担います。

主な業務内容は以下の通りです。

重要なのは、発注者支援業務の立場では施工業者に直接指示を出すことができない点です。
不備や問題を発見した場合は、必ず発注者の監督職員に報告し、発注者から是正指示を出してもらう必要があります。
このため、発注者と施工業者双方との良好なコミュニケーションが欠かせません。

行政事務補助業務は、発注者が事業を円滑に進めるために必要な各種資料の作成や、関係機関との協議・調整を支援する業務です。
公共工事は多くの関係者が関わるため、膨大な書類作成と調整業務が発生します。

具体的には、以下のような業務を行います。

　　　
これらの資料は、専門的な内容を分かりやすく伝える必要があるため、高度な文書作成能力が求められます。

また、Word、Excel、PowerPointといったOfficeソフトのスキルに加え、図面作成のためのCADスキルも必要となる場合が多いです。
行政事務補助業務は、デスクワークが中心となるため、現場作業が少ない一方で、期限管理や正確性が重視される業務といえます。

発注者支援業務の具体的なイメージを掴むために、実際の1日の業務の流れを見ていきましょう。
ここでは工事監督支援業務を担当するケースを例に、午前と午後それぞれの典型的な業務内容と、時期による違いについて解説します。

発注者支援業務のデメリットなどの悪い評判について知りたい方は、こちらの記事で詳しく解説しています。

午前中は基本的にデスクワークが中心となり、書類作成や確認作業に多くの時間を割きます。

発注者支援業務は、年度のサイクルによって業務内容や忙しさが大きく変動します。

季節や天候によっても業務内容は変わります。冬季は積雪地域では工事が中断されるため、資料作成業務が中心となり、デスクワーク比率が高まります。

発注者支援業務は専門性の高い仕事ですが、適切な経験とスキルを身につければ、未経験からでもチャレンジできる職種です。
ここでは、発注者支援業務に就くために必要な要件と、キャリアを積んでいく道筋について解説します。

発注者支援業務では、以下のような経験やスキルが求められます。

【建設業界での実務経験】
最も重視されるのが、土木工事の現場経験です。
特に施工管理の経験があれば、工事の流れや品質管理のポイントを理解しているため、大きなアドバンテージとなります。
ゼネコンや専門工事会社での現場監督経験が3年以上あれば、十分に評価されるでしょう。

【コミュニケーション能力】
発注者支援業務では、発注者の監督職員と施工業者の間に立って業務を行うため、高度なコミュニケーション能力が不可欠です。
技術的な内容を分かりやすく説明する能力や、異なる立場の人々の意見を調整する能力が求められます。

【文書作成能力】
報告書や協議資料など、様々な書類を作成する機会が多いため、正確で分かりやすい文章を書く能力が必要です。
Word、Excel、PowerPointといったOfficeソフトを業務レベルで使いこなせることが前提となります。

【CADスキル】
図面の確認や修正を行う機会が多いため、AutoCADやV-nasといったCADソフトの基本操作ができると有利です。
完全に未経験でも入社後に習得できますが、事前に基礎知識があると即戦力として評価されやすくなります。

発注者支援業務に就くために、以下の資格を取得しておくと有利です。

　　　
土木施工管理技士は、公共工事の発注者支援業務において必須とされることが多いため、優先的に取得を目指すべきです。
特に1級を保有していれば、責任者として扱える工事の範囲が広がり、昇進や昇給のチャンスも増えます。

RCCMは国土交通省も重視している技術職資格で、発注者支援業務のように中立的な立場で管理業務を行う際に特に有効です。
入社後に会社の支援を受けて取得を目指すケースも多くあります。

発注者支援業務でのキャリアは、段階的にステップアップしていくのが一般的です。

入社直後は、先輩技術者のサポート業務からスタートします。
現場臨場への同行、写真整理、簡単な報告書作成など、基本的な業務を通じて発注者支援業務の流れを学んでいきます。
この時期は、発注者や施工業者とのコミュニケーションの取り方、書類の書き方、業界の慣習などを吸収することが重要です。

また、発注者支援業務共通仕様書や国土交通省の各種基準を読み込み、公共工事特有のルールや手続きについて理解を深めます。
OJTで実務を学びながら、必要な資格取得の勉強も並行して進めていく時期です。

3年程度の経験を積むと、一つの工事を担当技術者として任されるようになります。
現場臨場や検査の計画を自分で立て、報告書も独力で作成できるレベルに達します。発注者との打ち合わせにも単独で参加し、技術的な判断も求められるようになってきます。

この段階では、複数の案件を並行して担当することもあり、スケジュール管理や優先順位の判断力が磨かれていきます。
1級土木施工管理技士やRCCMの資格取得を目指すのも、このタイミングが適しています。

5年以上の経験を積むと、後輩の指導や、より大規模・複雑な案件を任されるようになります。複数の技術者をまとめるリーダー的な役割を担い、発注者との重要な協議にも参加する機会が増えてきます。

この段階になると、専門分野を深めて技術スペシャリストを目指す道と、マネジメントスキルを磨いて管理職を目指す道の2つのキャリアパスが見えてきます。
高速道路や鉄道、トンネルといった特定分野のエキスパートとして専門性を高めることも、組織全体を統括する管理者として活躍することも可能です。

未経験者や異業種からの転職者でも、土木施工管理の経験があれば十分にチャンスがあります。
まずは2級土木施工管理技士の取得から始め、発注者支援業務を行っている建設コンサルタント会社への転職を目指すのが現実的なルートといえるでしょう。

発注者支援業務とは、国や地方自治体の公共工事を民間企業の立場から支援する、やりがいのある仕事です。
積算技術業務、工事監督支援業務、行政事務補助業務という3つの柱があり、それぞれが公共インフラの整備に欠かせない役割を果たしています。

1日のスケジュールは午前中のデスクワークと午後の現場確認というバランスの良い構成で、公務員に準じた勤務時間のため、ワークライフバランスを保ちながら働けるのが大きな魅力です。

未経験から発注者支援業務に就くには、土木施工管理の経験と土木施工管理技士の資格が鍵となります。
段階的にキャリアを積んでいくことで、専門性の高い技術者として成長できる道が開かれています。